あまりにもあっけない決定だった。
昨年10月、
大阪地裁で行われた模擬裁判。小さいころから父親に暴力をふるわれて育った少年が、仲間と一緒に路上強盗をして被害者に大けがをさせたという設定だ。この少年に、刑務所での刑罰を科す刑事処分にすべきか、それとも家裁に移送したうえで少年院などで矯正
教育を施す保護処分にすべきか。これが最大の争点だった。
裁判官3人と裁判員6人による評議の冒頭、1人の裁判員が問いかけた。「暴力的な家庭で育ち、性格がねじ曲がった少年にどんな教育をすれば更生するか、イメージできますか?」
傍聴していた元家裁判事、井垣康弘(69)は「保護処分がふさわしい」と感じていた。だが、裁判員全員が「イメージできない」として刑事処分を決定、議論は量刑に移された。
「少年刑務所と少年院
の違いがまったく理解されていない」。井垣は愕然(がくぜん)とした。
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少年院は、家庭環境などでゆがんでしまった少年を時間をかけて育て直す施設だ。与えられた作業を黙々とこなして刑期を過ごす刑務所とは根本的に異なる。
井垣は家裁判事として、約6000人もの少年と審判で向き合ってきた。少年院(長期)に送致した場合は必ず面会に行き、審判時と激変する姿を何度も見てきたという。
ただ、単に少年院で矯正教育を受けさせればいいというわけではない。公判や少年審判での審理は極めて重要になる。その教訓になった例が、17年に
大阪市浪速区で姉妹を殺害した死刑囚、山地悠紀夫(26)。16歳のときに
山口県で母親を撲殺し、家裁で保護処分相当と判断されて少年院に送られた。大阪事件は出院の1年半後のことだった。
山地は父親を早くに亡くした。母親は
借金を重ね、家に帰らないこともあったという。少年審判のときに付添人を務めた
弁護士、内山新吾(50)は「動機は理解できたし、立ち直ろうという意欲もみられた。保護処分の判断に間違いはなかった」と振り返る。
しかし、この審判では重大なことが見落とされていた。山地は少年院で精神科医からアスペルガー症候群と診断された。にもかかわらず、山地は特別な教育を施されないまま出院した。
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少年事件の背景には発達障害や発育遅滞が潜んでいるケースは少なくない。
井垣は、少年事件厳罰化議論のもとになった9年の
神戸連続
児童殺傷事件で、
鑑定医の意見を重視し、当時14歳の少年を医療少年院に送致する決定をした。「少年の状況に対応して育て直すには、スタッフがそろっていなければ無理」と思ったからだ。
山地の大阪事件の弁護人を務めた橋口玲(40)は「出院後も精神医療を継続して受けさせていれば再犯という最悪の結果は防げたのではないか」と指摘し、「裁判員裁判では積極的に精神鑑定を行うべきだ」と提案する。
大阪地裁では今年2月、同じ設定の模擬裁判を開き、元家裁調査官を証人として呼ぶ試みを行った。どう処遇すれば少年が立ち直り、社会のためになるのか。そのために法廷で何を審理すべきか。法曹3者の模索は続いている。=敬称・呼称略
2009.5.23 sankei